海壁

第十二章

みんなで決める

挿絵:みんなで決める

朝の一滴のあと、詰め所に、みんなが集まった。

マーロウ、ミラベル、ウィラ、ドラグ、ロズリン、グレゴール、グロム、ベル、オスカ。戸口に、ガスが寄りかかっていた。

マーロウが、先に言った。

「おれが、四人のところへ行けば、この街は、狙われない」

『一人で決めるのは、なし』

ミラベルが、すぐに言った。腕を組んで、マーロウの前に立って。

『坊やが言ったんだよ。前に。二人で決めるって』

「…言った」

『父さんが行くなら、あたしも行く』

ウィラが、机に両手をついた。

『それで、父さんの血を取られたら、次は、あたしたちが、取り返しに行く。同じことでしょ』

マーロウは、黙った。

ドラグが、腕を組んだまま、言った。

「海壁の街は、壁の街だ。狙われたら、壁が立つ。…壁の隊長に、仕事をさせろ」

戸口で、ガスが、鼻を鳴らした。

『拾い屋を、牛百頭で売り渡す拾い屋が、どこにいるよ』

マーロウは、みんなの顔を、順番に見た。それから、ミラベルを見た。

「…分かった。ここにいる。みんなで、決めた」

『みんなで、決めた』

ミラベルが、胸を張った。


グレゴールが、ロルフを連れてきた。手首の縄は、ほどいてあった。

「手紙は、どこから来る」

マーロウが訊くと、ロルフは、まっすぐ答えた。

『東の荒れ地の、帝国の古い見張り塔です。荷車で、四日。…手紙は、いつも、塔の下の石の箱に入っていました』

「塔か」

『私が、見てきます』

グレゴールが、言った。

「どうやって」

『あのグリフォンで』

ミラベルが、目を丸くした。

「あの子、乗せてくれるかな。グレゴールを」

『分かりません。…試させてください』


グリフォンは、納屋の裏の杭に、つながれていた。エマが、柵の向こうから、じっと見ていた。

グレゴールが近づくと、グリフォンは、翼を半分広げて、低く鳴いた。

ミラベルが、グリフォンの首に、そっと手を置いた。

「大丈夫。この人、あんたの仲間の、先生だった人だよ」

グリフォンは、しばらく、グレゴールの顔を見ていた。それから、翼を、ゆっくり畳んだ。

グレゴールは、鞍に手をかけた。その手が、少しだけ、震えていた。

鞍に、またがった。

グリフォンが、地面を蹴った。

翼が、二度、三度、空を打った。グレゴールの体が、壁の高さを越えて、上へ、上へ、昇っていった。

壁の上で、子どもたちが、叫んだ。

グリフォンは、街の上を、大きく一度回ってから、降りてきた。

グレゴールは、鞍の上で、しばらく動かなかった。風で、目が赤くなっていた。

『…翼がなくても、翼に、乗ることは、できます』

ドラグが、その横で、空を見上げていた。

「兄貴に、見せてやりたかったな」

ロズリンが、ドラグの外套の袖を、そっとつまんだ。

グレゴールは、ロルフを、うしろに乗せた。

『塔を知っている者が、要ります』

「逃げたら、どうする」

『逃げません。…私の、教え子です』

ロルフが、グレゴールの背中の、厚い布を見て、黙って、うなずいた。

グリフォンは、日暮れの空へ、東へ、飛んでいった。


グリフォンの影が見えなくなると、ミラベルが、マーロウの袖を、引っぱった。

『坊や。さっき、一人で行くって、言った』

「言った」

『怒ってる。あたし』

「…悪かった」

ミラベルは、腕を組んで、そっぽを向いた。

『ちゅうで、許す』

マーロウは、ため息をついて、ミラベルの額に、口をつけた。

『おでこじゃない』

「今は、それで勘弁しろ。みんな見てる」

壁の上で、ガスが、わざとらしく咳をした。オスカが、首をかしげて、それを見ていた。


夜、ロズリンは、壁の上で、ドラグの横に座っていた。

ドラグは、東の暗い空を見ていた。

『隊長』

「何だ」

『子どもが、できました』

ドラグの手から、灯りが落ちた。

石の上で、灯りが転がって、止まった。消えなかった。

「…ほんとか」

『ヴェスタさんに、見てもらいました。冬の、終わりごろに、生まれるそうです』

ドラグは、しばらく、何も言わなかった。

それから、大きな手を、ロズリンの腹のほうへ伸ばして、途中で止めた。触っていいのか、分からない手だった。

ロズリンが、その手を取って、自分の腹に、そっと当てた。

「…兄貴に」

ドラグの声が、かすれた。

「兄貴に、叩かれるな。遅いって」

『遅くありません』

ロズリンは、ドラグの肩に、頭をもたれさせた。

『名前は、二人で、考えましょう。…二人で、決めるんです』

機械が止まってから、二十日目の夜だった。

第十二章 了