第二十三章
撃つなら、わしを

「ミラベル!」
マーロウは、先頭の船に向かって、叫んだ。
「三つ数えたら、三隻とも撃つ! 撃ったあとは、どうなる!」
最後のほうは、ペトラに向かって言っていた。
ペトラは、膝を叩く指を、止めなかった。
『撃ったあと、筒を冷ますあいだ、どの筒も、撃てません。七つ数えるあいだ。…三隻とも、同じです。同じ人が、同じ号令を、かけているから』
「聞こえたか!」
先頭の船の甲板に、ミラベルが出てきた。剣を、肩に担いで。
『聞こえた!』
ペトラが、数えた。
『…一つ。二つ。三つ』
三隻の腹の筒が、いっせいに、火を噴いた。
弾は、灰色の船の甲板に、まっすぐ飛んだ。
オスカが、ベアタとウィラの前に、跳んだ。金属の両腕を、顔の前で、交差させた。
弾が、その腕で、弾けた。
白い煙が、甲板を覆った。
煙が晴れると、オスカが、同じところに立っていた。金属の腕に、黒い焦げ跡が、二つ。錆びない金属は、へこみもしていなかった。
ウィラが、オスカの背中に、しがみついていた。
『…ここに、立つって、言ったから』
オスカは、振り向かずに言った。
ペトラが、また、数えはじめた。今度は、声に出して。
『一つ』
ミラベルが、先頭の船の手すりを蹴った。
『二つ』
二隻目の船の甲板に、降りていた。筒が四本、根元から、ばらばらと落ちた。
『三つ。四つ』
三隻目。筒が五本、落ちた。
『五つ』
四隻目。いちばん大きな船だった。腹の筒は、六本。
『六つ』
剣が、光った。
『…七つ』
六本目の筒が、甲板の端から、畑へ落ちていった。
四隻の船から、撃てる筒が、一本もなくなった。
ロズリンの抱えた板が、光った。
『ラングレーの頭を、確認しました。十二のうち、八』
「あと、四!」
四隻目の甲板の上から、ミラベルが叫んだ。
ペトラは、畑の南の端で、膝を叩く指を、やっと止めた。自分の指を、見下ろしていた。
『…誰にも、言われていません。数えないと、落ち着かないから、数えていました』
ロズリンが、ペトラの肩に、手を置いた。
「その数が、四隻を、止めたんです」
けれど、四隻目の甲板では、兵たちが、まだ、銃を構えていた。灰色の船に向けて。
その後ろに、共和国の議会の服を着た男が、四人、立っていた。
議長が、杖をついて、ラーナのほうを向いた。
『…わしを、あの船へ、運んでくれ』
「議長」
提督が、止めようとした。
『数を出すのは、おまえの役だ。…数を決めるのは、わしの役だ』
ラーナは、黙って、議長を前脚で抱えて、飛び上がった。
四隻目の甲板に、議長が、降ろされた。
杖をついて、背を丸めて、手が震えていた。兵たちの銃口の前に、ゆっくり、立った。
『撃つなら、わしを撃て』
細い声だった。けれど、甲板の上では、よく聞こえた。
『議長だぞ、わしは。…九人のうち、五人に選ばれた、議長だ』
兵の一人が、銃を下ろした。
また一人。また一人。
四人の男のうち、いちばん若い一人が、一歩、後ずさった。
ミラベルが、甲板の上で、剣を肩に担いだまま、議長の横に立っていた。
「かっこいいね、じいちゃん」
『…手が、震えとる』
「震えてても、立ってたもん」
昼過ぎ、二隻の灰色の船が、畑の北の端で、発つ支度をしていた。
ウィラは、ベアタの船の、光の柱の前に立っていた。
マーロウの前に、戻ってきた。
『父さん。…五つ、じゃない。四つだ。そろえてね』
「そろえる」
『そしたら、海壁の街で、ガスの乾杯、三回』
「三回目が、長いやつな」
ウィラは、笑った。それから、マーロウの胸に、一度だけ、額をぶつけた。ミラベルのやり方で。
ミラベルが、横から、二人ごと抱きしめた。オスカが、その後ろで、開いた両手を、どうしていいか分からずに、胸の前で合わせていた。
提督の船のほうから、ニコが、走ってきた。都に、トンのそばに、帰るのだった。
ウィラと、短く抱き合った。
それから、マーロウのほうを向いて、言った。
『トンが、ゆうべ、地面の下から言ってた。遠くても、聞こえるんだ』
ニコは、少しだけ、首をかしげた。自分でも、よく分からないという顔で。
『蓋の下の子が、目を開けたって』
二年のうちの、百十六日目だった。
第二十三章 了