第二十二章
つなぐ

都の南の作業場で、窯に火が入った。
入れたのは、マイエルだった。一番の札の男だ。灰色の作業着を着た、翼のない獣。背中の肩甲骨のあたりに、傷跡が二つある。
瓦礫を片づけた広い床に、翼が十一枚並べてあった。広間から外してきた札が、一枚ずつ添えてあった。
トビアス・レンクが、翼の付け根を指で押していた。
『…腐ってない』
禿げた頭を、手のひらで撫でた。
『広間の中は乾いてた。乾いてたから、根元の肉が死にきってない。これなら、つなげる』
「本当に?」
ラーナが、身を乗り出した。
『この作業場で、何をつないできたと思う』
トビアスは、床の隅を顎で指した。刃の腕をつなぐための台が、まだ残っていた。
『本部の金属の腕を、肉の体につないできた。刃を四本、ここで作った。つなぐのは、おれたちの仕事だった』
トビアスの声が、少し低くなった。
『作ったものが、人を殺した。だから、つなぐ仕事で、少しは返したい』
ラーナは、姉の翼の包みを見た。灰白色の二枚は、まだ麻に包まれたままだった。
「姉さんのは、最後でいい」
『ラーナ』
シビルが、静かに呼んだ。
「十一人が先。この人たちの翼は、この人たちのものだから。私のは、姉さんのをもらうんだもん。順番は、いちばん後ろ」
シビルは、何か言いかけて、やめた。
トビアスが、指を折った。
『一日に、三人か四人だ。縫い目が締まるまで、三日。自分の翼なら、腐らん』
「姉妹の翼は?」
『…たぶん、大丈夫だ』
トビアスは、正直に言った。
『姉妹なら、肉が近い。赤の他人のをつないだ近衛の男より、ずっといい』
一人目は、マイエルだった。
台にうつ伏せになって、歯を食いしばった。トビアスと三人の弟子が、付け根の古い傷を開いて、翼をあてがって、太い糸で縫った。
マイエルは、声を上げなかった。
ラーナが、その頭を前脚で抱えていた。
「息して。息、止めないで」
マイエルは、息をした。
縫い終わったとき、灰色の翼が、背中の上で一度だけ、ぴくりと動いた。
作業場の全員が、それを見た。
マイエルは、振り返れないまま、泣いた。
ノエラは、少し離れたところに立っていた。
腕の刃は、引っこめてあった。首に布はない。布は、ミラの脇に巻いたままだ。
トビアスが、手を洗いながら、ノエラのほうを見ずに言った。
『おまえが殺した技師はな。ルーカスっていった』
ノエラの肩が、止まった。
『ラーナを叩いた。叩くやつだった。…それでも、おれの弟子だった。十五のときから、ここで糸の結び方を教えた』
「…ごめんなさい」
『おれに謝るな』
トビアスは、濡れた手を作業着で拭いた。
『おまえを許すかどうかは、おれが決めることじゃない。あいつの母親が決める。都に住んでる』
ノエラは、長いこと、トビアスの背中を見ていた。
それから、頭を下げた。
ラーナが、横に来て、ノエラの脇腹に頭を押しつけた。何も言わなかった。
夜、作業場の瓦礫のあいだで、火を焚いた。
ブリンが豆を煮た。ピオとリラが、ブリンの両側に座って、口を開けて待っていた。ブリンが、交互に匙を入れてやった。
「腕がないってのは、便利だねぇ。黙ってても食わせてもらえる」
ピオとリラは、同じ角度で首を傾げた。
ボロが、二人の膝のあいだに潜り込んで寝た。
シビルとラーナは、火から離れた石の上に並んでいた。
「姉さん。背中、寒くない?」
『翼がないことには、慣れています』
「嘘。子どものころ、寝るとき、いつも翼で私をくるんでたじゃない。寒い寒いって言ったら、すぐ」
シビルは、黙った。
しばらくして、言った。
『…今度は、あなたが、私をくるんでください』
ラーナは、姉の肩に、自分の首を回した。
そのとき、火の向こうで、歌が聞こえた。
二番の札の女、セトラだった。縫ったばかりの翼を背中で畳んで、夜空を見上げて、低い声で歌っていた。翼が広間にあった一年のあいだ、夜中に一人で歌っていた歌だ、とラーナが言った。
トビアスが、火に枝を足しながら言った。
『明日は、ハンネと、あと三人だ。…最後が、おまえだな』
ラーナは、姉の肩に首を回したまま、頷いた。
セトラの歌は、火が小さくなるまで続いた。
シビルは、最後まで目を閉じなかった。妹の首の重さを、数えるように肩で受けていた。
第二十二章 了