第十八章
本物

五隻は、海の上に横一列に並んだ。
腹が、いっせいに開いた。光の柱が五本、禁止区の白い地面に落ちた。
柱の中を、融合兵が降りてきた。一本の柱から十人以上。数える前に、グリフォンの騎兵が船の甲板から飛び立って、空を埋めた。
それから、真ん中の柱を、二つの影が降りてきた。
人の形をしていた。
頭のてっぺんから足の先まで、全部が、光を鈍く返す金属だった。顔には、鉄の面がはまっていた。目の穴も、口の穴もない、のっぺりした面だった。
二つの影は、地面に降りると、同時に顔を東門へ向けた。
それから、両腕の刃を伸ばした。四本。音もなく。
「…あれが、本物」
壁の上で、ミラベルが言った。
『はい』とベルが言った。『私たちと同じ場所で作られた部品です』
融合兵が、壁へ走ってきた。
グロム副長の号令で、壁の兵が撃った。弾は、少なかった。一人に一発ずつしかない。撃ち終わった兵は、銃を捨てて、鉤と棒を握った。
ガスが、壁の上から縄を投げた。三本の指で、器用に結び目を作っていた。縄に足を取られた融合兵が、白い地面を転がった。
『次ぃ! 右から来るぞぉ!』
ミアが、ガスの横で次の縄を渡していた。
ウィラは、壁のいちばん高いところに立っていた。帳面を懐に押し込んで、叫んでいた。
「ベル、左! ミラベル、真ん中の船から、また降りてくる!」
二つの本物は、まっすぐ東門へ歩いてきた。
走らなかった。歩いていた。融合兵が倒されても、グリフォンが落ちても、見向きもしなかった。
ベルが、壁から飛び降りた。二本の刃で、一体目の首を狙った。
高い音がした。刃が、弾かれた。
本物の一体が、振り向きもせずに腕を振った。刃の腹が、ベルの脇を打った。ベルの体が、白い地面を十メートル滑った。
ミラベルが、反対側から跳んだ。二体目の脚の継ぎ目を狙った。
弾かれた。継ぎ目も、金属だった。
「うっそ、つなぎ目もないの!?」
二体目の刃が、ミラベルの肩をかすめた。黒い液が散った。
ミラベルは、転がって立ち上がった。
白い地面の向こうで、ベルも、脇を押さえて立ち上がっていた。
『損傷、軽微です』
「軽微って顔じゃないよ、それ!」
『顔は、いつもこうです』
強かった。
腹を空かせていない。暴れもしない。ただ、言われたことをまっすぐやる。それが、いちばん強かった。
東門の前に、ガルドが立っていた。
左手に、名前のない剣を提げて。
去年、この街の市場で、この剣でミラベルの刃を折った男だった。右手を失ったのも、あの日だった。
一体目の本物が、ガルドの前で止まった。のっぺりした鉄の面が、剣を見下ろした。
『来い』
ガルドが言った。
本物の刃が、振り下ろされた。
ガルドは、受けなかった。左手一本で、剣を横から当てて、刃の軌道を逸らした。逸らしたまま、半歩踏み込んだ。
剣が、本物の右腕の肘に入った。
金属が、紙のように切れた。
本物の右腕が、肘から先ごと、白い地面に落ちた。
本物は、声を上げなかった。落ちた腕を見もしなかった。残った左腕の刃を、ただ、もう一度持ち上げた。
壁の上で、兵たちが声を上げた。
『四十年ぶりに下手なことをやっとる』
ガルドは、息を切らしていた。
『下手でも、当たれば切れる』
共和国の兵のあいだに、声が走った。
『剣だ! 聖なる剣だ! あれを取れ!』
いくつもの声が、重なっていた。
融合兵が、いっせいにガルドへ向かった。グリフォンが、空から降りてきた。
ガルドは、剣を振った。一人。二人。左手一本では、それが限りだった。
二体目の本物が、ガルドの背後に回っていた。
「ガルドさん! 後ろ!」
ウィラが叫んだ。
ガルドが振り返るより先に、刃の腹が、ガルドの背を打った。
ガルドの体が、前に飛んだ。
剣が、左手から離れた。
剣は、宙を回った。
朝の光の中で、一度、二度、回った。
融合兵の手が、何本も、それに向かって伸びた。グリフォンの爪が、上から伸びた。
その全部より先に、金属の左手が、柄をつかんだ。
ミラベルだった。
白い地面に、片膝をついて。左手に、名前のない剣を握って。
壁の上で、ウィラが帳面を握りしめた。
ミラベルは、剣を見た。
去年、市場でこの剣に、自分の刃を折られた。あのときの痛みを、左腕が覚えていた。
「…重っ」
ミラベルは、立ち上がった。
剣を、左手で構えた。
「借りるよ、おじさん」
地面に倒れたまま、ガルドが、顔だけ上げた。
『…返せよ』
「返す。終わったら」
第十八章 了